プレゼント


「これ、昔、プレゼントしてくれた
 東京出張のお土産」
 あなたが見せてくれた
 薄緑色の小さな石が連なったネックレス
 
 へえっ と見つめてみたが
 一向に記憶がない
 まだ大阪勤務のころの話だから
 42年以上前のことだ
 
 その頃は、お土産に
 こんなものを買っていたんだ
 と思うと懐かしいような
 微笑ましいような
 
 お土産と言えば
 饅頭か団子か
 干物か粕漬か
 清酒かワインか
 
 二人で一緒に
 楽しんで味わえるもの
 あなたが好むかどうか
 選ぶ基準はそれだけ
 
 考えてみれば
 いや、考えるまでもなく
 あなたにプレゼントといえるものを
 したことがない
 
 ただ一度だけ
 記憶にあるのは
 アメリカ出張のおりの
 お土産もの
 
 初めて飛行機に乗った
 初めての海外への旅で
 初めての外国での買い物だった
 何を買えばいいのやら
 
 それは
 1976年の秋だった
 数えてみれば
 38年前のことだ
 
 ニューヨークの町を
 たぶん五番街を
 ぶらついて
 何がいいのか考えた
 
 入りにくい高級店は
 当然、敬遠して
 ドアの開いている
 入りやすい店に入って
 
 手ごろな値札を探して
 バッグを眺めていたら
 笑顔のお姉さんが
 棚から一つ手に取って
 
 自分の肩にかけて
 「American style」
 と、いいながら
 ポーズを取ってくれた
 
 ニューヨークに来ての
 お土産なら
 アメリカ製がいいだろう
 と勝手に決めて
 
 形や色合いも考えず
 ブランド名も知らないままで
 店のお姉さんの勧めで
 それを買った
 
 これでお土産が買えたから
 ほっと安心して
 慣れない新聞社や協会の訪問を
 一カ月余重ねて
 
 最終行程の
 サンフランシスコに来たら
 針金細工の露店で
 おじさんが仕事をしていた
 
 名前でブローチを作ってくれる
 「KIKUE」「HARUNA」
 と書いて渡したら
 「Young lady?」「Yes」
 
 年齢でデザインが変わるのかな
 しばらく散歩して
 出来上がったものを受け取って
 これで、お土産は完璧
 
 それ以降
 プレゼントは無しで
 過ごしてきて
 これで良かったのかな
 
 いや、良いわけがない
 良くありません
 ご免なさい
 ずうっとだものね
 
 
 あれからうんと歳月が過ぎて
 アメリカのお土産
 COACHだった
 とあなたが言った
 
 そうか、そういうブランドだったのか
 調べてみたら、1941年マンハッタンで創業。
 Coachは馬車の一種だから
 元は馬具を作ってたのかも
 
 1985年、サラ・リー社に買収され
 2000年ニューヨークで株式上場し
 総合ファッション企業に発展
 2001年コーチ・ジャパン創業
 
 あのお土産は1976年製だから
 ファッション化する前の
 馬具風のバッグだったのでしょうね
 ご免なさい
 
 まともなプレゼント無しで
 我慢してもらって
 ここまで来てしまって
 原爆も69忌になった
 
 せめて新しい
 COACHでも
 買おうか
 思案してください
 
 
 
 2014.8.25
                  
tamate.html