2016年上期


               傘寿われ敬はれしは独楽回し

               参道に繋ぐ小さき手温き冬

              マオリ棲む国愛し妻の旅初め

              陽を溜めて青翅動きぬ冬の蝶

             屠蘇注ぐや大学院へ四十路の子

              国会に絶えぬ妄言豆を撒く

             冬月やマッターホルンを水彩で

             轟きて雪崩し後の静寂
(しじま)かな

            春雪に見事なシュプール朝の嶺

            三歳児退さりつ覗く蝌蚪の国

            上賀茂や絵馬書く筆に春陽射す

           出会ひしは京の抜け露路木々芽ぐむ

            炙り餅垂れに焦げの香京うらら

            蕗味噌の香りや除染の里しのぶ

            職終へて絵と詩
(うた)の日々納税期

            媼掃くそよ風にまた花吹雪

            散る落つる崩るも命花の性

            欄干越し枇杷なほ未熟誰そ逸る

            火の国の朧夜に地震
(ない)城崩す


                       阿蘇内牧

            鎮まざる地ぼてり出湯途絶えけり

            脱衣めく落花狼藉白木蓮

            春蘭も地震も大地は母として

            回し飲む岩魚骨酒山の宿

             後楽や四時間登高の夏スキー

            残雪峰化粧水欲し山男

               立山や雷鳥五月をまだ白く

               黒光る梁
(うつばり)の宿仏法僧

               残雪の剣岳
(つるぎ)茜に友もまた

               撫で洗ふ茶革の褪せて登山靴

          

              戦尽きず緑新し無言館


              早世の遺作青嶺に対しをり

 

             空の青白鷺降りて水の蒼

                         湯田中渋の湯二句

              驟雨過ぐ外湯めぐりの下駄の音

              九十二歳の淹れる珈琲含羞草

              絵具選る熟れし木苺透きし彩

              綱引くや鉢巻に滲む汗赤し

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